2018年の冬のシャンゼリゼは暴動と黄色いベストに埋め尽くされています。
今回は、ガソリン税の高騰に抗議する運動から始まった「Mouvement des gilets jaunes 黄色いベスト運動」について覗いてみましょう。
目次
デモの影響
郊外のショッピングセンターへ行きたいマリーさん、普段は車で行くのに今回はRERを使うようですが、その理由とは一体何なのでしょう?
会話
Marie : Est-ce que tu veux m’accompagner au centre commercial pour faire des achats pour Noël ?
クリスマスの買い物をしにショッピングセンターに行かない?
Hanako : Ça tombe bien. Je voudrais y aller aussi.
ちょうど良かった。私も行きたかったのよ。
Marie : Par contre je compte aller en RER. Ça ne t’embête pas ?
でもね、RERで行こうと思うの。それでもいい?
Hanako : Non, ça ne m’embête pas du tout.
いいえ、全然問題ないわ。
Il vaut mieux éviter de prendre la voiture en ce moment, comme il y a des gilets jaunes partout.
ジレ・ジョーヌが沢山いるから、今は車に乗るのを避けたほうが良いもの。
Marie : Exactement. Je comprends la colère des gilets jaunes, mais je ne veux pas être bloquée en voiture.
その通りよ。ジレ・ジョーヌ達の怒りもわかるけど、車に乗っているのをブロックされたくはないものね。
gilets jaunes
「gilet」は「ベスト」 、「jaune」は「黄色」のこと。つまり「gilet jaune」は「黄色いベスト」ですが、反射帯が付いた工事現場などで身に付ける「安全ベスト」を意味します。
フランスでは事故などで道路に降りなければならない時にこの「gilet jaune」の着用が義務付けられおり、つまり各車に必ず1枚は常備されているのです。
社会的運動のシンボル
そんな「gilet jaune」ですが2018年の冬には社会的運動のシンボルに変身しました。
ガソリン増税に反対する人々がソーシャル・ネットワーク上で「gilet jaune」を着てデモをすることを呼びかけ、それを受けて2018年11月17日に全国的な最初のデモが行われました。
本来デモを行うには県庁に届出をし許可を得なければなりません。しかし「gilets jaunes」の運動には明確な主催者がいないため、届出も出されていません。
そのためかフランスのいたるところでデモが繰り広げられ、特に郊外の大型スーパーやショッピングセンターにつながる道路で「gilets jaunes」がバリケードを設置、大きな渋滞を引き起こしました。
また運動に参加していた「gilet jaune」が車にはねられ死亡したほか、ケガ人も多数出す結果になってしまいました。
その後もデモは続いていますが、この11月17日以降は道路封鎖等のデモは若干鎮静化してきています。
車をブロックはしても短時間だけ、ブロックする目的もチラシを配ったり嘆願書へのサインを求めるためであったりと穏やかです。
パリにおけるデモの悪化
その反対に回数を重ねるごとにひどくなるのがパリなど大都市のデモ。11月24日には許可された「le Champs-de-Mars」以外の場所でも「gilets jaunes」によるデモが展開されました。
特に「les Champs-Elysées」では警察と「gilets jaunes」が衝突し、道路や周囲のレストランやブティックに多大な被害を与えてしまいます。
そして12月1日は再び「gilets jaunes」が「les Champs-Elysées」に集結。「l’arc de triomphe」を中心に暴動を起こし、さらにはパリの至ることろで車が燃やされ、まるで市民戦争のような様相を呈しています。
デモ目的の変化
「gilets jaunes」の最初の目的は高騰するガソリン税への抗議でしたが、デモが長引くにつれ「prix de péage 高速道路の料金」「pouvoir d’achat 購買力」はたまた「retraite 年金」「éducation 教育」など様々な不満に対する抗議運動へと変化しています。
そんな「gilets jaunes」のスローガンの1つが「Macron démission マクロン、辞職しろ」。社会の不満が一気に噴出した今回のデモでは、大統領の辞任まで叫ばれるようになりました。
gilets jaunesとcasseur
さてデモを行っているのは「gilets jaunes」ですが、実際に暴動を起こしているのは「gilet jaune」をまとった「casseur 暴力分子」と呼ばれる人たち。
デモやストライキがあると、その主張に賛同して集まった人たちに紛れて、沿道のショーウィンドーやベンチなどの設備を壊す人たちのことです。
目出し帽などで顔を隠した「casseur」は「gilets jaunes」とは全く別の存在で、破壊行動を楽しんだり盗みを働いたりという存在です。
「casseur」のせいで「gilets jaunes」の運動が暴力的なイメージを持たれてしまうのは残念なことですよね。テレビなどでも暴動は「gilets jaunes」ではなく「gilet jaune」をまとった「casseur」であることを明確にしています。
とはいえ「gilets jaunes」がいるところには「casseur」が潜んでいる危険が高いのも事実。いつまでこの運動が続くかは不明ですが、もしパリ旅行中に「gilets jaunes」を見かけたら、その場所には近づかないようにしてくださいね。
パリのデモとジレ・ジョーヌのその後
2018年の11月に始まったジレ・ジョーヌによるデモは2019年に入っても毎週土曜日に行われています。
今回は、パリのその後がどうなっているのかを見てきましょう。
前日のデモの様子
パリでジレ・ジョーヌのデモのあった翌日、花子さんとマリーさんは前日のデモについて話をしているようです。
会話
Marie : La violence de la manifestation des gilets jaunes est redevenue très dangereuse…
ジレ・ジョーヌのデモの暴力行為が、またとても危険になってきたわね。
Hanako : J’ai vu à la télé, un policier par terre attaqué par plusieurs personnes.
私は地面に倒れた警察官を何人もの人が襲っているのをテレビで見たわ。
Marie : Je l’ai vu aussi. En plus, les images des immeubles incendiés aux Champs-Elysées.
それ、私も見たわ。それにシャンゼリゼの建物の火事のイメージとか。
Ça m’a beaucoup choqué.
ショックを受けたわ。
Hanako : Le Fouquet’s a aussi été incendié…
フーケも放火されたわね。
Je suis allée à ce restaurant il y a longtemps, avant même de venir m’installer à Paris.
このレストランに昔行ったことがあるのよ。パリに住みにくる前のことだけど。
Marie : Je n’y suis jamais allée. Pour moi, il est un restaurant pour les riches.
私は行ったことがないわ。私から見たら、お金持ちのためのレストランだもの。
Hanako : Il se situe en plein milieu des Champs-Elysées, et son style typique parisien fait rêver les touristes étrangers.
シャンゼリゼのど真ん中に位置しているでしょ。それに典型的なパリのスタイルは外国人の旅行者を魅了するのよ。
manifestation「デモ」
「manifestation」は「デモ」のこと。社会に何かしら不満があるときに、その示威行為として行われます。
同じような行為に「grève」がありますが、こちらは「ストライキ」のことです。労働条件の改善を求めて勤務先に対して行う行為ですね。
s’installer「設置する」
「installer」は「設置する」という意味ですが、代名動詞「s’installer」だと「(場所に)落ち着く・住み着く」という意味になります。
Je m’installe à Paris.
パリに居を構える
Installe-toi au canapé, je te prie.
どうぞソファーに座って。
ジレ・ジョーヌの2019年3月の動き
2018年の11月から始まったジレ・ジョーヌによるデモは最初のころほどの勢いはなくなりましたが、2019年に入っても毎週土曜日に決行されています。
凱旋門に侵入し破壊行為を行なったり、路上駐車の車を燃やしたりといったまるで戦争のような激しい破壊行為は回数を重ねるにつれ、比較的沈静化の傾向がありました。
ところが18回目を迎えた2019年3月16日のシャンゼリデにおけるデモは、初期の破壊行為を彷彿させる激しさとなってしまいました。
建物への放火
今までにも路上の車やごみ箱を燃やしたり、タイヤや木材で作ったバリケードを燃やしたりということはありました。
また店のガラスを壊したり、そこから侵入して店内を荒らしたり略奪行為に及ぶこともありました。
ところが18回目のデモでは、なんと破壊した店に放火までされてしまったのです!もちろんそれらの店の上階にはアパートがあり、住んでいる人がいるにもかかわらずです。
幸いなことに消防士によってすぐに消火活動が行われ大きな人的被害は出ませんでしたが、放火という超えてはいけない一線を踏み越えてしまった印象があります。
老舗レストランのLe Fouquet’s
シャンゼリゼの凱旋門よりに位置しパリの老舗レストランを代表する Le Fouquet’s も、残念なことに放火の対象になってしまいました。
1899年より営業しており歴史的建造物にも指定されている Le Fouquet’s は、パリのガイドブックにも掲載されていることが多いですから、知っている方も、実際に行ったことがある方も多いかもしれませんね。
他にも Longchamp に Foot Locker といったブティック、 Léon de Bruxelles に le café Deauville といった飲食店も放火の被害にあっています。
キオスク
Le Fouquet’s などのレストランやお店以外にも「Kiosque キオスク」も放火の被害にあいました。
新聞や雑誌以外にも絵葉書やパリの地図が売られているので、旅行者にも便利な存在です。丸いドーム型屋根がついた古き良きパリの面影を感じさせるデザインで、シャンゼリゼの風景になくてはならないものの1つですよね。
ところが防寒面や毎日の開店・閉店業務の大変さなど、そこで働く人々にとっては決して快適な環境ではありません。また彼らは収入面でも決して恵まれてもいません。
そんな「Kiosque」が燃やされてしまったことで、ジレ・ジョーヌの活動に理解を示していた人の中からも、もうそろそろお終いにすべきだとの意見も出てきています。
ジレ・ジョーヌは社会的な不公平さの改善も掲げていますが、彼らのデモのせいで低賃金でも頑張って働いていた人の仕事を奪ってしまうという半面を併せ持ってもいるのです。
※2019年3月17日の情報です。